
金融庁が「高齢者向けのNISA制度」を新設し、毎月分配型投資信託の容認を検討しているという報道が出た。これははっきり言って、長期的な資産形成を目的としたNISAの本来の趣旨を逸脱する愚策である。
これは非常によろしくない方向性の検討だ。簡単に言えば、高齢者をターゲットにした“政治的配慮による愚策”であり、個人投資家の利益よりも、金融業界や政治家の都合が前面に出た話にすぎない。
まず、毎月分配型の投資信託という商品そのものについて言っておこう。
これは、投資家の資産を“切り崩して”毎月支払うだけの構造であり、長期的な資産形成にはまったく向かない。さらに、分配のたびに再投資効果を損ね、手数料コストも積み上がる。中身を知れば知るほど「こんなものは買ってはいけない」と思うはずだ。
金融庁はこれまで、「長期・積立・分散」という王道を貫いてNISA制度を設計してきた。それは個人投資家の資産形成にとって理にかなった方向性だったし、アクティブ運用や販売側の都合で設計された“クズ商品”を排除することにもつながった。
ところが、ここへきて「高齢者に使いやすく」などという名目で、分配型を特例的にNISAに入れようというのは、明らかに証券業界の営業支援である。はっきり言えば、これは高齢者をカモにする仕組みを、税制の後押しで合法化するようなものだ。
本当に高齢者のためになる制度設計とは
高齢者の「生活資金が不安」という声があるのは事実だし、それに対する公的制度の整備は必要だ。しかし、それに応える方法として「NISAに分配型を入れる」というのは完全に的外れである。
生活費に充てたいなら、シンプルに預金や個人向け国債、iDeCoの定期受取などで対応すればよい。わざわざNISAという「非課税の運用口座」でリターンを削るような商品を使う必要はないし、それを制度的に後押しするなど本末転倒もいいところだ。
本当に高齢者に必要なのは、
- 制度のシンプルさ(分かりやすさ)
- 手数料の低さ
- 資産の維持に資する設計
であって、「お小遣い感覚で配当が出る」ような構造ではない。むしろ、高齢者こそが複雑な金融商品に巻き込まれないための仕組みを整えるべきなのだ。
結論:誰が得をする制度かを常に見よ
今回の「高齢者向けNISAで毎月分配型解禁」案は、以下の3つの点で問題がある:
- 資産形成に不向きな商品を税制優遇の枠内に入れるという本末転倒
- 高齢者の不安心理を利用した“営業支援”にすぎない制度改変
- 金融庁が再び“販売側”に寄りすぎる兆し
制度改正のたびに、個人投資家が自問すべきは一つ。「これで誰が得をするのか?」
高齢者の懐か、証券会社の手数料か。冷静に見れば答えは明白である。個人投資家は、制度の裏にある力学を読み取り、合理的で低コストなインデックス運用を基本とする投資戦略をぶらさず貫いていくべきだ。
「生活費が必要だから毎月分配型」などという営業トークに、未来の資産を切り売りするような真似はしてはならない。それが、長く豊かに生きるための第一歩である。
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