前十字靭帯(ACL)の手術を経験した人がぶち当たる壁といえば、「術後に筋力が全然戻らない!」とか「結局スポーツに復帰できない!」といった問題ですよね。実際、私自身も理学療法士として多くのACL患者さんを見てきましたが、術後の筋萎縮と筋力低下には本当に苦労することが多いです。
で、そんなときによく患者さんから尋ねられるのが、「結局、どのリハビリをすれば一番早く筋力が戻るの?」という問題なわけです。世の中には全身振動トレーニング(WBVT)だとか、血流制限トレーニング(BFRT)だとか、いろんな方法が出てますけど、結局どれがベストなのか。
そこで、この問題にズバリ答えを出してくれそうな新しいデータ(R)が出てましたので、今日はその内容をチェックしておきましょう。
ACL再建後の筋力回復、最強は「水中リハビリ」?
今回の解析は、前十字靭帯再建術を受けた患者さん計1,345人を対象にした、38本のランダム化比較試験(RCT)をもとにしたメタ解析であります。分析されたトレーニング法はざっと以下の9種類。
- 水中リハビリ(WR)
- 血流制限トレーニング(BFRT)
- 全身振動トレーニング(WBVT)
- エキセントリックトレーニング(ET)
- 等速性トレーニング(IT)
- プログレッシブトレーニング(PT)
- クロストレーニング(CT)
- マルチモーダルトレーニング(MT)
- モーターコントロール(MCT)
かなり幅広いアプローチが比較されてますね。そのうえで、「大腿四頭筋力、ハムストリングス筋力、膝関節機能がどれだけ改善したのか?」をチェックしたという内容であります。
で、結果をざっくり言いますと、こんな感じになりました。
- 大腿四頭筋力の改善
水中リハビリと全身振動トレーニングがともにトップクラスの効果を発揮(効果量=1.66)。ただし、水中リハビリの方がトータルのランキング(SUCRA=83.6)ではトップになりました。 - ハムストリングス筋力の改善
水中リハビリがダントツで強力な結果に(効果量=2.05)。マルチモーダルトレーニングもそこそこ良い成績を残しましたが、それでも水中運動には及ばず。 - 膝関節機能の改善
血流制限トレーニング(BFRT)がトップ(効果量=2.00)。水中リハビリも2位(SUCRA=71.9)と健闘しています。
ということで、全体の傾向をまとめると、やっぱり水中リハビリが筋力回復にめちゃくちゃ有利なんだな、ってのがはっきりしました。特に術後早期(0〜6週)のリハビリには、水中で行う運動が非常に相性が良いんですね。
水中リハビリがACL術後リハビリで強い理由とは?
では、なぜ水中リハビリがここまで優れているのかって話ですが、大きなポイントは以下の3つ。
- 関節に優しい
水の浮力で関節の負担が劇的に減るため、痛みが強い術後初期から運動量を稼ぎやすくなります。 - 負荷が勝手に調整される
水の抵抗は動きのスピードによって自動調整されるので、筋力に合わせて常にちょうどいい強度を得られるというスグレモノ。 - 温水効果で回復促進
温かい水の効果で血行が促されるので、筋肉や関節の回復が早まります。さらに痛みが和らぎ、運動量が増える好循環が生まれやすいのです。
とはいえ、万能ではありません。実際、筆者自身の臨床経験でも、水中運動だけでは筋肉の爆発的パワーや伸張性収縮(エキセントリック動作)にはやや弱く、競技復帰レベルの機能を取り戻すには陸上でのハイインテンシティトレーニングが後々必要になります。
結局、ACLリハビリのベスト戦略とは?
以上を踏まえると、現時点で科学的におすすめできるベストなリハビリ戦略は、
- 術後0〜6週(早期):水中リハビリで痛みなく動きの再教育
- 術後6〜12週(中期):全身振動や血流制限トレーニングで筋肥大を促進
- 術後12週以降(後期):陸上でエキセントリック&プライオメトリクスを導入
という感じの「3段階システム」が理想であります。
もちろん今回のメタ解析にはいくつかの弱点(言語バイアス、盲検化の不足、エビデンスの質の低さ)があるので、この結論を絶対視することはできません。しかし、それでも水中運動と血流制限トレーニングの優位性はかなり揺るがないでしょう。
まとめ
というわけで、ACL再建後のリハビリで筋力・機能を最短ルートで取り戻したいなら、まずは水中リハビリから入って、徐々に血流制限や陸上エキセントリック運動へ移行していくのがベストじゃないかと思います。水中だけで全てOK!とはいかないので、そこはご注意を。
もちろん、実際のリハビリは個人差が大きいですから、自分の状態に合わせて適切な方法を選んでみてくださいませ。
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