「キネシオテープって、人間用のものでしょ?」
そんな固定観念を打ち砕くような研究が、獣医療の世界で登場しました。
2025年に発表されたランダム化比較試験では、歩行障害のある犬にキネシオテープを貼ったらどうなるか?という問いに挑戦。その結果、テープを貼った犬たちはたった45分で「歩数が減り(=歩幅が伸びた)」「体重移動がスムーズに」「歩行時間が短縮」されるという、驚くほど速やかな改善を見せました。
具体的には、キネシオテープ(KT群)と、伸縮性のないリジッドテープ(CG群)を比較したところ、KT群の方が有意に「歩数と体重移動」で優れた結果を示しました(p<0.05)。しかもこれは、貼った直後のデータ。つまり、貼るだけで神経系や筋機能に即効性のある変化が起こったということです。
この研究は、キネシオテープが「犬にも効く」ことを世界で初めて示したランダム化比較試験(RCT)であり、動物リハビリの未来を変える可能性を秘めています。
なぜ貼るだけで改善するのか?
キネシオテープの本質的な働きは、「貼って固定する」ことではなく、「感覚入力を変える」ことにあります。
テープは皮膚を軽く持ち上げて、皮下の筋膜(ファシア)空間を広げることで、リンパや血流の循環を改善。さらに、皮膚に存在するメカノレセプター(感覚受容器)を刺激することで、筋肉の使い方や関節の動き方そのものに影響を与えるのです。
このような効果は、人間に対しても広く研究されています。例えば、2015年の研究(Ekizら)では、脳卒中患者の下肢にキネシオテープを貼ることで、歩行速度や歩幅、バランス感覚が改善されることが示されています。2022年の研究(Bae & Park)でも、慢性的な足の麻痺を持つ患者がテープによって歩行パラメータ全般で向上しました。
今回の犬の研究でも、歩数が減った=歩幅が伸びたという変化が観察され、これはまさに「動きの質」が変わった証です。つまり、筋肉単体ではなく、中枢神経との連携や運動パターンの最適化にまで影響を及ぼしていると考えられます。
この研究の限界──「貼ればOK」とは言い切れない理由
どんな研究にも盲点や制約はあるもの。今回のキネシオテープ研究も例外ではありません。以下は、論文内でも明記されている限界点です。
1. サンプルサイズが小さい
参加した犬はたった20匹(各グループ10匹)。
これでは統計的に強力な結論を出すにはやや力不足です。たとえば、犬種や個体差(筋肉量や性格)によって効果にバラつきが出る可能性があります。
研究者自身も「今後はより多くの対象での追試が必要」と述べています。
2. 観察期間が短い(たった45分)
今回はテープを貼ってからたった45分後の効果しか見ていません。つまり、「すぐに良くなる」ことは示せても、「長期的に良くなる」かはまだ未知数。
過去の人間研究では、数日〜数週間の貼付で効果が出るケースもあり、動物においても時間経過とともに変化する可能性は否定できません。
3. プラセボ効果のコントロールが困難
動物研究では「プラセボ効果」が少ないと思われがちですが、実はハンドラー(犬の世話をする人)の無意識の影響が結果に影響することがあります。
今回の研究では、リジッドテープを使った対照群があるとはいえ、完璧な二重盲検(研究者も犬の状態も分からない)とは言い切れず、観察者バイアスの可能性は否定できません。
4. 症状や疾患の多様性が大きい
研究に参加した犬は、股関節形成不全・骨折・前十字靭帯損傷など異なる整形外科的問題を持っていました。
これにより、「誰にとって最も効果的か?」がまだ明確ではなく、特定の病態ごとの有効性を知るにはさらなる絞り込みが必要です。
まとめ:キネシオテープは「可能性大」、でも鵜呑みはNG
要するに、今回の研究は「貼ってすぐ効果がある可能性を初めて示した」点で意義深いですが、「すべての犬に常に効く」とまでは言えない段階です。
科学的にはここからが本番。
大規模な研究や長期的な追跡、そして犬の病態に応じた個別最適化が進めば、もっと信頼できるリハビリ法として確立されるかもしれません。
とはいえ、貼るだけ・副作用なし・低コストという特性は極めて魅力的。セルフケアやホームリハビリの選択肢としては、「使わない理由がない」くらいのポテンシャルは十分にあります。
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