理学療法士として働いている中で最も気になるのは「関節可動域」と言っても過言ではないでしょう。
ここでは肩関節内旋ROM制限に対しての評価から治療までをまとめようと思います。
肩関節内旋の関節可動域
- 基本軸:肘を通る前額面への垂直線
- 移動軸:尺骨
- 参考可動域:内旋80°
肩関節内旋可動域制限の治療の流れ
実際に治療する際には、以下のような流れで治療するとスムーズだと思います。
- 立位や座位で結滞動作を確認
- 仰臥位になり、内旋可動域と水平内転可動域の左右差を確認する
- 他動でクロスボディストレッチを行う(このとき肩甲骨を固定する)
- ROM制限が残っていれば後方モビライゼーションを行う
- 起き上がり、結滞動作を再確認。制限があればMWMを行う。
- ホームエクササイズとしてクロスボディストレッチを指導
という流れになるかと思います。
カルテには、「結滞動作:健側 Th7、患側 L1。患側で肩外側に痛みあり→リハ後は患側Th10」などと記載すると良いと思います。
では、実際の治療で使う手技を3つ紹介していきましょう。
クロスボディストレッチ
英語と日本語のランダム化比較試験を対象とした系統的レビュー(R)では、クロスボディストレッチは、症状のない若年者において、即時または短期間で後方肩のタイトネスと肩関節内旋可動域低下を改善しうるとの結果が出ています。
- 壁(またはドア枠)を背にして立ち、ストレッチする側の肩甲骨を壁に押し付けて固定する
- その状態で腕を胸の前に交差させ、もう一方の手で肘を押さえて体に引き寄せる
といった手順で行っていただくと、代償動作を防ぎながら、後方関節包・棘下筋・小円筋・三角筋後部を効果的に伸ばすことができます。
単に腕を引くのではなく、「肩甲骨を壁に固定」している点が重要です。これにより、肩甲骨が外側に逃げるのを防ぎ、正しくストレッチ効果を与えています。
壁でやりにくければ、患側を下にした側臥位で行えば、自然と肩甲骨の外側移動が防げると思います。
後方モビライゼーション
2010年にアメリカで行われたRCT(R)では、ストレッチ単独よりも、モビライゼーションを併用した方が、内旋可動域に改善される傾向がありました。
- セラピストは患者の腕と体の間に体を位置させ、片手で前腕を支える
- もう一方の手の小指側(尺骨縁)を使い、モデルの上腕骨頭に力を加え、床方向(後方)へ押し込む
これを持続的または反復して行うことによって、後方関節包を緩め、関節可動域の改善が見込めます。
MWM
2015年のインドのRCT(R)では、MWM+運動が運動のみより結滞動作の到達度・痛み・障害の改善がみられました。
- 患者の患側の横に立ち、片手を患者のに入れて肩甲骨を安定させ、もう一方の手を患者の肘の内側に当てる
- セラピストは体重をかけて肘に下方への滑りを誘導し、自身の腹部で肘を内側に押し込みながら、患者の動作を補助する
- 患者は健側の手で患側の手首を持ち、背中の後ろで手を引き上げる「結帯動作」を繰り返す
僕は肩甲骨の固定がやりにくいので、バスタオルを巻いたものを挟んで行ったりしています。
まとめ
- 立位・座位で結滞動作を確認し、仰臥位で肩関節内旋と水平内転の左右差をみる。治療前後で結滞の到達レベルと痛みをカルテに具体的に記録する(例:Th7→L1→Th10など)。
- 他動のクロスボディストレッチ→必要なら後方モビライゼーション→起き上がって結滞を再確認し、残ればMWMを追加、という順で進める。ホームエクササイズとしてクロスボディストレッチを指導する。
- クロスボディストレッチは症状のない若年者で短期的に後方肩の硬さと内旋可動域の改善が期待される。後方モビライゼーションはストレッチ単独より内旋が改善する傾向。MWM+運動は運動のみより結滞の到達度・痛み・障害の改善がみられた。
というお話でした。参考になれば幸いです。
ここが分かりにくいなどあれば、Xでもコメントでも質問してください。どうぞよしなに。


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