こんにちは。カラガラです。
整体やマッサージで、次のように言われたことはないでしょうか。
骨盤がゆがんでいます
左右の脚の長さが違います
骨盤のゆがみが腰痛の原因です
こう言われると、体の土台である骨盤がずれていて、放置すればさらに悪くなるように感じます。
しかし、先に結論を言えば、骨盤に傾きや左右差があることと、骨盤の骨がずれていることは別です。さらに、その左右差が腰痛の原因とは限りません。施術後に体が楽になったとしても、「ずれていた骨盤が元の位置に戻った」と証明されたわけでもありません。
では、「骨盤のゆがみ」という説明は、どこまで本当なのでしょうか。研究結果をもとに整理します。
第1章 骨盤は本当に「ゆがむ」のか
まず問題になるのは、「骨盤のゆがみ」という言葉に、医学的に統一された定義がないことです。

骨盤は、中央にある仙骨と、その左右にある腸骨などからできています。仙骨と腸骨をつなぐ部分が仙腸関節です。
骨盤のゆがみという言葉は、仙腸関節がずれているという意味で使われることもあれば、骨盤が前後や左右に傾いている、腰骨の高さが違う、左右の脚の長さが違って見える、といった状態を指すこともあります。
しかし、これらは同じ現象ではありません。
例えば、立っているときに片脚へ体重をかければ、骨盤は左右に傾きます。筋肉の硬さや股関節の動かし方が違えば、片側が前に出て見えることもあります。
一方、骨折や脱臼のように、骨の位置や形そのものが大きく変わる状態もあります。
両方をまとめて「ゆがみ」と呼んでしまうと、姿勢の癖なのか、骨や関節の病気なのかが分からなくなります。
仙腸関節は動くが、簡単に大きくずれるわけではない
仙腸関節は、まったく動かない関節ではありません。立つ、歩く、前かがみになるといった動作に伴い、わずかに動きます。
ただし、上半身の重さを支えるため、強い靱帯によって安定した構造になっています。
仙腸関節の動きを調べた研究をまとめた系統的レビューでは、その動きは数度、数ミリ程度の小さな範囲とされています。
つまり、日常生活のなかで骨盤が簡単に大きくずれたり、外から少し押しただけで骨が自由に移動したりするわけではありません。
もちろん、出産前後、外傷、炎症性疾患などによって、骨盤周辺の安定性や動き方が変化する場合はあります。
しかし、一般的に使われる「骨盤がゆがんでいます」という説明の多くは、骨が大きくずれているというより、姿勢や動きの左右差を指していると考えたほうが自然です。
そして、人間の体はもともと完全な左右対称ではありません。
利き手があれば筋肉量に差が生まれます。いつも同じ手で荷物を持ったり、同じ脚に体重をかけたりする人もいます。肩や腰骨の高さが少し違うことも珍しくありません。
左右差があるだけで、異常とは限らないのです。
大切なのは、左右差そのものより、痛みやしびれがあるか、動作や生活に支障があるか、急に変化したかどうかです。
では、その小さな左右差を、施術者は手で正確に見分けられるのでしょうか。
第2章 骨盤のゆがみは痛みの原因なのか
骨盤の評価では、腰の後ろにある骨の出っ張りなどを左右から触り、高さや位置を比べる方法がよく使われます。
しかし、このような触診による検査は、検査する人によって結果が一致しにくいことが分かっています。
骨盤後面の骨の位置を触って判定する検査について、複数の研究をまとめた系統的レビューでは、異なる検査者同士の判定は、臨床で十分使えるほど一致していませんでした。
また、仙腸関節の動きを触診する検査を調べた2021年の系統的レビューでも、一部の検査では同じ人が繰り返した場合にある程度一致したものの、本当に仙腸関節の動きを正しく測れているかは確認されていません。
皮膚や脂肪の厚さ、筋肉の張り、立ち方、触る位置などでも判定は変わります。
そのため、
骨盤が右に3ミリずれています
などと細かな数値まで断定された場合は、どのような方法で測ったのか確認したほうがよいでしょう。
人の手だけで、骨盤の位置をミリ単位で正確に判断することは困難です。
左右差があることと、痛みの原因であることは別
では、骨盤の傾きと腰痛には、まったく関係がないのでしょうか。
そこまで言い切ることもできません。
腰痛がある人とない人の姿勢を比較した研究では、腰痛がある人のほうが骨盤の傾きなどに違いが見られる場合があります。
ただし、研究ごとに測定方法や対象者が異なり、結果にもばらつきがあります。
さらに、骨盤が傾いている人に腰痛が多かったとしても、
骨盤が傾いたから腰痛になった
とは限りません。
腰が痛いため、痛みを避けるように片側へ体重を移し、その結果として骨盤が傾いて見える可能性もあります。
足を痛めた人が、痛くない側へ体重を逃がして立つのと同じです。この場合、体の傾きは痛みの原因ではなく、痛みに対する反応です。
腰痛には、筋力や体力だけでなく、睡眠、仕事の負担、ストレス、痛みへの不安など、さまざまな要素が関係します。
骨盤の左右差一つだけで、すべての腰痛を説明することはできません。
脚の長さがそろっても、骨盤が戻ったとは限らない
整体などでは、あおむけに寝た状態で左右のかかとを比べ、施術後にそろったことを示す場合があります。
しかし、寝た姿勢でかかとの位置を見るだけでは、骨そのものの長さを正確に測ることはできません。
かかとの位置は、寝る位置、膝の伸び方、股関節や足首の角度、筋肉に入っている力、検査者が脚を引く強さなどによって変わります。
施術後に筋肉の緊張が弱まり、脚の置かれ方が変わることはあります。
ただし、それだけで「ずれていた骨盤の骨が元の位置に戻った」とは言えません。
本当に骨の長さに左右差があるかを調べる必要があれば、立った状態での測定や画像検査など、目的に合った方法が必要です。
それでは、骨盤矯正やマッサージには意味がないのでしょうか。
第3章 「骨盤矯正」とどう付き合えばよいのか
骨盤が元の位置に戻るという説明に根拠が乏しいからといって、手を使った施術に効果がないとは限りません。
マッサージや関節を動かす施術によって、一時的に痛みが軽くなったり、体を動かしやすくなったりする人はいます。手技療法は、慢性腰痛に対する複数の治療選択肢の一つとして、ガイドラインにも挙げられています。
ただし、その変化は「骨盤の位置が修正された」と考えなくても説明できます。
皮膚、筋肉、関節への刺激によって、神経の働きや痛みの感じ方が変化する可能性があります。筋肉の緊張が弱まることもあります。
また、安心して施術を受けられたことや、よくなるという期待、その日の体調なども、痛みの感じ方に影響します。
施術後に楽になったという経験は、その人にとって大切な事実です。
しかし、
施術で楽になった
だから骨盤がずれていた
施術によって骨盤が戻った
という三段論法が成り立つわけではありません。
施術だけに依存しないことが大切
WHOの慢性腰痛ガイドラインでは、運動、患者への説明、セルフケア、心理的な支援、一部の手技療法などを、その人の状態に合わせて組み合わせることが勧められています。5
英国のNICEガイドラインでも、マッサージや関節を動かす手技療法は、運動を含む治療の一部として行うよう勧められています。
つまり、施術で楽になるのであれば利用してもよいものの、それだけを長く続けるのではなく、自分で体を動かすことや生活を整えることも重要です。
睡眠、仕事や家事の負担、運動不足、体力低下など、症状に関係している要素を一緒に見直す必要があります。
不安をあおる説明には注意する
特に注意したいのは、骨盤の左右差そのものではなく、それを使って不安をあおる説明です。
例えば、
- あらゆる症状を骨盤のゆがみだけで説明する
- 放置すると必ず悪化すると断言する
- 一度の施術で骨盤が完全に元へ戻ると説明する
- 定期的に矯正しなければ、すぐにずれると説明する
- 高額な回数券や長期契約を急いで勧める
- 運動やセルフケアをほとんど説明しない
といった対応には慎重になったほうがよいでしょう。
「骨盤がゆがんでいます」と言われたら、
具体的に何がどうなっているのですか?
それが痛みの原因だと考える根拠は何ですか?
自分でできる運動や対策はありますか?
と聞いてみてください。
信頼できる専門家であれば、検査の限界や、施術で期待できること、期待できないことも含めて説明するはずです。
また、転倒や事故のあとに強い痛みが出た、発熱を伴う、脚の力が入りにくくなる、症状が急速に悪化するといった場合は、骨盤矯正で様子を見るのではなく、医療機関で原因を確認する必要があります。
まとめ
骨盤に傾きや左右差が生じること自体はあります。
しかし、「骨盤のゆがみ」という言葉には統一された定義がなく、姿勢の癖や筋肉の左右差、脚の見かけ上の長さの違いまで、まとめて表現されているのが実情です。
仙腸関節は少し動きますが、日常生活で簡単に大きくずれる関節ではありません。また、触診だけで骨盤の位置を正確に判定することも難しく、左右差が腰痛の原因とは限りません。
施術によって体が楽になることはあります。ただし、それは骨盤の骨が元の位置に戻った証明ではありません。
「骨盤がゆがんでいます」と言われても、必要以上に怖がる必要はないでしょう。
大切なのは、骨盤が完全に左右対称かどうかではなく、痛みや動きにどのような問題があり、生活にどう影響しているかです。
人間の体は、多少の左右差があるだけで壊れてしまうほど、もろくありません。
曖昧な「ゆがみ」を治し続けるより、自分の症状に合った運動や生活上の工夫を見つけることのほうが重要です。


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