脳腫瘍後の「頭の冴え」を取り戻す?有酸素運動がもたらす意外な効果

論文

「脳腫瘍を経験した人に運動をすすめても大丈夫なの?」という疑問を持つ方は多いと思います。治療で大きな負担を受けた脳に、さらに負荷を与えるのは不安になりますよね。特にグリオーマの患者さんは、治療後も注意力や記憶力といった認知機能の低下に悩まされることが少なくありません。社会復帰や日常生活に直結するだけに、解決策が求められてきました。

そこで注目されるのが「有酸素運動」であります。2019年に発表されたパイロットRCT(R)では、安定期のグレードII〜IIIグリオーマ患者を対象に、6か月間の在宅運動プログラムを試したところ、認知機能や生活の質にポジティブな変化が見られたんですな。

有酸素運動で脳機能はよみがえるのか?

研究デザインはシンプルでして、患者を2群に分けて比較しました。

  • 運動群:週3回、20〜45分の有酸素運動を実施(心拍数最大の60〜85%)。在宅で行い、理学療法士がリモートで指導。
  • 対照群:公衆衛生ガイドラインをまとめた冊子と定期的な電話フォローのみ。

半年後に行われた神経心理検査の結果、運動群では「注意の抑制」「注意スパン」「ワーキングメモリ」「情報処理速度」「遂行機能」などで小〜中程度の改善傾向が見られました。Stroop課題(干渉抑制)やDigit Span(注意スパン)での差は特に目立ったものです。

もちろん、すべての指標が改善したわけではありません。持続的注意を測る課題では、むしろ対照群がやや有利に出るケースもありました。とはいえ全体の流れとしては「運動が認知機能の維持や改善につながる可能性がある」という概念実証になったと言えるでしょう。

認知機能だけでなく疲労や気分にも効果

この試験で面白いのは、患者自身が感じる生活のしやすさ(患者報告アウトカム)にも改善が出ていた点です。

  • 身体的な疲労が軽減した
  • 活動レベルが上がった(動ける感覚の回復)
  • 睡眠の質が良くなった
  • 気分が改善した(抑うつや不安の軽減)
  • 精神的健康に関するQOLが上昇した

これらはがんサバイバー全般で問題となる症状でして、運動の恩恵が幅広く働いていることを示しています。背景にあるメカニズムとしては、神経新生の促進、脳由来神経栄養因子(BDNF)の増加、炎症の抑制といった要素が考えられており、アルツハイマー病やうつ病研究で報告されてきた知見と一致しています。

実践に向けた課題と展望

この介入の良いところは「自宅でリモート指導が可能」だった点です。病院まで通う負担がないため、患者の遵守率は79%と高く、安全性や満足度も良好。現実的に導入しやすい方法だと言えるでしょう。

一方で課題もあります。サンプル数が34例と少なく、効果はあくまで探索的な段階。また、参加者は運動へのモチベーションが高い人に偏っていたため、一般化には注意が必要です。

それでも、この研究は「脳腫瘍患者のリハビリに運動を組み込むべきか?」という議論に重要な材料を提供しています。運動は薬剤に頼らず安価で副作用も少ない介入であり、今後の大規模試験が待たれるところです。

まとめると、グリオーマ患者を対象としたこの試験は、

  • 有酸素運動が注意や記憶といった認知機能を改善する可能性
  • 疲労や気分、QOLにも好影響を与える可能性
  • 在宅リモートプログラムとして実現性が高い

といった点を示しました。まだ仮説の段階ではありますが、「脳腫瘍でも運動した方が良い」という視点は、これからのリハビリや生活支援を考えるうえで有力な方向性になりそうです。

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