膝蓋腱炎(ジャンパー膝)は、ジャンプ動作を多く行うスポーツ選手に高頻度で発生し、長期にわたるスポーツ活動からの離脱を余儀なくされる難治性の障害です。一般的に推奨されているエクセントリック運動療法(EET)は疼痛を伴うという課題がありました。本研究では、新たなアプローチとして段階的腱負荷運動療法(PTLE)の有効性を従来のEETと比較検証しています。
研究概要
項目 | 内容 |
---|---|
対象者(P) | 臨床的および超音波検査で確認された膝蓋腱炎を有する18~35歳の運動選手76名(平均年齢24歳、男性76%) |
介入(I) | 段階的腱負荷運動療法(PTLE):静的(アイソメトリック)、動的(アイソトニック)、エネルギー蓄積型(爆発的)、スポーツ特異的運動を許容疼痛内(VAS≤3)で実施 |
比較(C) | エクセントリック運動療法(EET):傾斜台上での疼痛誘発性(VAS≥5)の片脚スクワット下降相エクセントリック運動 |
アウトカム(O) | 主要評価項目:24週後のVISA-P(膝蓋腱炎特異的機能評価)スコア<br>二次評価項目:スポーツ復帰率、患者満足度、運動実施率 |
エビデンスレベル | レベル1(ランダム化比較試験) |
主要結果
- VISA-Pスコア(0-100点)は両群とも改善したが、24週後にPTLE群で有意に高値を示した(84点 vs 75点、調整済み平均差9点、95%CI: 1-16、p=0.023)
- PTLE群ではEET群と比較して運動中の疼痛(VAS)が有意に低かった(2点 vs 4点、p=0.006)
- スポーツ復帰率はPTLE群で高い傾向を示したが統計学的有意差はなかった(43% vs 27%、p=0.13)
- 「優」の満足度評価はPTLE群で有意に高かった(38% vs 10%、p=0.009)
- 運動実施率は両群間で有意差はなかった(PTLE: 40%、EET: 49%、p=0.33)
臨床応用
- 膝蓋腱炎に対する初期保存療法としてPTLEを第一選択として推奨する(静的→動的→爆発的→スポーツ特異的の段階的進行)
- PTLE実施の具体的手順:
- ステージ1(アイソメトリック運動):
- 片脚レッグプレスまたはレッグエクステンション(膝関節60度屈曲位)
- 最大随意収縮の70%の強度で45秒間×5セットを毎日
- ステージ2(アイソトニック運動):
- 1日目:ステージ1のアイソメトリック運動を継続
- 2日目:片脚レッグプレスまたはレッグエクステンション
- 膝関節10~60度の範囲で15回×4セット開始
- 徐々に負荷を増加し、膝関節0~90度の範囲で6回×4セットへ進行
- ステージ3(エネルギー蓄積運動):
- 1日目:ステージ1の運動継続
- 2日目:ステージ2の運動継続
- 3日目:プライオメトリック運動(ジャンプスクワット、ボックスジャンプ、カッティング動作)
- 両脚での10回×3セットから開始
- 徐々に片脚での10回×6セットへ進行
- ステージ4(スポーツ特異的運動):
- スポーツ特異的トレーニングを2~3日おきに実施(回復時間確保)
- スポーツトレーニングを行わない日はステージ1のアイソメトリック運動を継続
- 競技復帰後もステージ1と2の維持運動を週2回実施
- ステージ1(アイソメトリック運動):
- 運動実施時の重要な指針は「許容疼痛内」(VAS≤3)での実施であり、痛みをモニタリングしながら負荷量を調整する
- 運動療法単独ではなく、危険因子に対する運動(筋柔軟性、股関節周囲筋強化、コアスタビリティ)、荷重管理、患者教育を組み合わせた包括的アプローチが必要
- 症状が長期化している患者や過去の治療で十分な改善が得られなかった患者にも効果が期待できる
- 理想的には理学療法士による監視下での実施が運動実施率や治療効果をさらに高める可能性がある
まとめ
- 膝蓋腱炎に対するPTLEはEETと比較して24週後の臨床転帰が有意に優れており、初期保存療法として推奨される。
- PTLEは従来のEETと比較して実施時の疼痛が少なく、優れた満足度を示すが、運動実施率は両群とも50%未満であった。
- 長期罹患例や両側例、過去の治療歴を持つ難治例でも改善が認められたことから、慢性膝蓋腱炎に対しても有効性が期待できる。
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