「背中で手が届かない」「内旋が詰まる」──肩の後方カプセル(関節包)が固くなると、上腕骨頭が前上方へズレやすくなり、肩峰下のスペースが狭くなります。結果として、挙上や投球でのインピンジメントや関節唇を傷めるリスクが上がるわけですね。
では、どんなストレッチが後方関節包の柔軟性を改善できるのか。そんな調査をしてくれた論文(R)がありました。
これは、臨床でおなじみの二つのストレッチ、クロスボディとスリーパーを直接比較したランダム化比較試験です。
どちらも定番のストレッチですね。
この研究では左右差10度以上の内旋制限がある大学生30名を無作為に二群へ、左右差10度未満の24名を非介入の対照群に入れて、4週間の介入を行ったものです。
用量は超シンプルで、毎日、片側だけ、5回×30秒。主要アウトカムはセカンドポジション(外転90度)で肩甲骨の動きを止めた受動内旋(IR90)。つまり、肩甲胸郭の代償を切り落として、後方組織そのものの長さ変化を見にいっています。
4週間の結果:平均+20度のクロスボディ、スリーパーは+12度前後
結論からいくと、クロスボディの勝ちでクロスボディ群はIR90が平均で約20度アップ、スリーパー群は約12.4度、対照群は約6度の微増にとどまりました。統計的にはクロスボディのみが対照を有意に上回り、クロスボディとスリーパーの差は検出力の問題で有意に届かず(各15名なので仕方ないですが)。
いくつか補足です。
・外旋(ER90)は三群ともほぼ変化なし。合計回旋角はクロスボディのみが対照より増加。
・結滞動作に近い指標のTUB(親指を背中でどこまで上げられるか、脊柱長で正規化)は、スリーパーだけがわずかに改善(平均+2.7%、およそ1.1cm)。クロスボディはほぼ不変。
・遵守率はクロスボディ約89%、スリーパー約81%。痛みの訴えはスリーパーのほうが多め。
なぜこうなるか。解剖の視点では、外転90度のストレッチは後下方カプセルに強くテンションがかかる一方、TUBのように体側で内旋する動きは後上方の組織(上方の関節包や棘上筋・棘下筋の上部線維)の影響が濃い。つまり、二つのストレッチは「効く場所」が少しズレているわけです。だから、IR90の左右差を詰めたいならクロスボディが第一選択。結滞の改善を狙うなら、スリーパーの要素を追加する、が理屈に合います。
もちろん限界もあります。被験者は無症候の学生で追跡は4週間のみ。投球選手の骨性適応(上腕骨の後捻など)や痛みを伴う臨床群では反応が違う可能性は高い。ただし測定は肩甲骨代償を排した厳密な内旋で、後方カプセルや後方腱板といった関節内側のターゲットに、実際に長さ変化が起きていることは読み取れます。
まとめ
- クロスボディ・ストレッチは、肩の後ろ側がかたい人の内旋可動域をしっかり改善。
- 30秒×5回、1日1セット、4週間が今回の処方。
- スリーパーも候補だが、痛みが出やすい人は無理をしない。
といったお話でした。
個人的に、クロスボディストレッチは痛みが出やすい印象があってあまり指導していなかったのですが、今後はセカンドの内旋で制限が強い患者には積極的に指導していこうと思いました。どうぞよしなに。
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