理学療法士として働いている中で最も気になるのは「関節可動域」と言っても過言ではないでしょう。
ここでは肩関節水平内転ROM制限に対しての評価から治療までをまとめようと思います。
肩関節水平内転の関節可動域
- 基本軸:肩峰を通る矢状面への垂直線
- 移動軸:上腕骨
- 参考可動域:135°
肩関節水平内転可動域制限の治療の流れ
実際に治療する際には、以下のような流れで治療するとスムーズだと思います。
- 臥位になり、水平内転可動域の左右差を確認する
- 他動でスリーパーストレッチまたはクロスボディストレッチを行う
- ROM制限が残っていれば後方モビライゼーションを行う
- 外旋筋群の遠心性収縮運動を行う
- ホームエクササイズとしてストレッチまたは遠心性収縮運動を指導
という流れになるかと思います。
では、実際の治療で使う手技を3つ紹介していきましょう。
スリーパーストレッチとクロスボディストレッチ
2025年に行われたメタ分析(R)では、ストレッチ群は対照群と比較して水平内転ROMの改善においても有意差を示しました(平均差 6°、95%信頼区間 1°–11°、p = 0.03)。
ストレッチ群が行っているストレッチがスリーパーストレッチとクロスボディストレッチです。
スリーパーストレッチ
- 伸ばしたい方の肩を下にして横向きに寝る
- 腕を肩の高さに上げ、肘を90度屈曲する
- 反対の手で手首を軽く握り、手のひらを床に向け、前腕を床に近づける
- 肩の後方に伸びる感じがしたらそこで止め、そのまま20秒キープ
指導する際は軽い力で行うよう指導しましょう。「これぐらいの力加減で」とセラピストが実際に他動で動かして、伸張感や強さの目安を教えるといいと思います。
クロスボディストレッチ
- 壁(またはドア枠)を背にして立ち、ストレッチする側の肩甲骨を壁に押し付けて固定する
- その状態で腕を胸の前に交差させ、もう一方の手で肘を押さえて体に引き寄せる
といった手順で行っていただくと、代償動作を防ぎながら、後方関節包・棘下筋・小円筋・三角筋後部を効果的に伸ばすことができます。
単に腕を引くのではなく、「肩甲骨を壁に固定」している点が重要です。これにより、肩甲骨が外側に逃げるのを防ぎ、正しくストレッチ効果を与えています。
壁でやりにくければ、患側を下にした側臥位で行えば、自然と肩甲骨の外側移動が防げると思います。
後方モビライゼーション
2024年の無作為化・逐次介入の実験室研究(R)では、肩関節後方モビライゼーションはスリーパーストレッチと同程度に水平内転の他動ROMを改善しました(スリーパー:+3.1° ±2.1、後方モビライゼーション:+5.2° ±4.5)
- セラピストは患者の腕と体の間に体を位置させ、片手で前腕を支える
- もう一方の手の小指側(尺骨縁)を使い、モデルの上腕骨頭に力を加え、床方向(後方)へ押し込む
これを持続的または反復して行うことによって、後方関節包を緩め、関節可動域の改善が見込めます。
遠心性の筋力トレーニング
2025年のRCT(R)では、一般治療群と比較して、遠心性運動を追加した群で有意に水平内転ROMが改善しました(4.6°、P = 0.025)。
ストレッチやモビライゼーションで増えた可動域の、筋肉が伸ばされたところで適正な収縮が行えるようにするために重要なトレーニングです。
車の運転を始めたての頃って、ブレーキを踏みこむか踏まないかの2択しかないじゃないですか。それが練習を繰り返すことによって、ちょうどいい強さのブレーキで、スムーズに運転できるようになる……みたいなイメージですね。
肩外転90°位での肩外旋の遠心性収縮
- ゴムバンドの端を持ち、肩外転90°、肘屈曲90°にします。
- 腕を外側に開きます(外旋)。
- ここが重要: バンドの張力に抵抗しながら、ゆっくりと時間をかけて腕を元の位置に戻します。
肩外転0°位での肩外旋の遠心性収縮
- ゴムバンドの端を持ち、肘を90度に曲げて脇を締めます。
- 腕を外側に開きます(外旋)。
- ここが重要: バンドの張力に抵抗しながら、ゆっくりと時間をかけて腕を元の位置に戻します。
まとめ
- 水平内転ROMの左右差を確認し、他動でスリーパーストレッチ/クロスボディストレッチ
- ストレッチ後も制限が残れば肩関節後方モビライゼーション
- 最後に外旋筋群の遠心性トレーニングを追加し、ホームエクササイズとしてストレッチまたは遠心性運動を指導
すると、水平内転ROM制限が治りやすいというお話でした。
ここが分かりにくいなどあれば、Xでもコメントでも質問してください。どうぞよしなに。


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