理学療法士として働いている中で最も気になるのは「関節可動域」と言っても過言ではないでしょう。
ここでは肩関節外転ROM制限に対しての評価から治療までをまとめようと思います。
肩関節 外転 の関節可動域
参考可動域:180度
基本軸:肩峰を通る床への垂直線
移動軸:上腕骨
180度の外転は、つぎの動きの組み合わせで成り立ちます。
- 肩甲上腕関節:およそ120度
- 肩甲骨の動き:およそ60度
治療
手技の使い分けは以下のように考えています。
- 痛みが少ない:終末域でのモビライゼーション
- 痛みが強い:MWM
- 他動だと力が入りやすい:PNFストレッチ
これで可動域が10度以上増えたり、疼痛が減ったら、その治療を続けるのがいいと思います。
終末域でのモビライゼーション
2024年発表の系統的レビュー+メタ解析(R)では、凍結肩(癒着性関節包炎)の人に対して終末域までしっかり攻める徒手療法(エンドレンジモビライゼーション) が他の保存療法と比べると、痛みや身体機能や可動域を改善しうるというとされています。
体位
- 患者:仰向け。肩関節は外転方向に,痛みが許す最大角度まで上げる(30〜70°程度から開始)。
- 頭の下に枕を入れ,体幹はできるだけリラックス。
術者のポジション・手の当て方
- 術者は患側のやや足側に立つ。
- 片手(近位側の手)で上腕骨頭のすぐ遠位(腋窩より少し遠位)を把持。
- もう一方の手で前腕遠位部を支え,外転角度をコントロール。
力の方向
- 上腕骨頭を真下(足方向)に向かって引き下げるイメージで,下方グライド(下方滑り)をかける。
- 関節面に対して垂直になるように,やや尾側・外側方向に向けて調整する。
MWM
2023年に発表された肩のMWMに関するシステマティックレビュー・メタ解析では、短期の痛み軽減と外転可動域の改善に有効らしいとのことでした(R)。
- 姿勢をとり、まずは軽く外側方向に滑りをかける
- その状態を保ったまま、患者に
- 「このまま腕を横にゆっくり上げてみてください」
- 痛みが
- 明らかに減る
- もしくは痛みなく上がる範囲が増える
→ その角度・方向を「当たり」として採用
- その「当たり」の方向で10回前後の反復外転(痛みのない範囲)
という感じの手技です。
PNFストレッチ
2019年に発表された凍結肩×PNFのシステマティックレビュー+メタアナリシス(R)では、凍結肩に対して、PNF(特にホールド・リラックス、コントラクト・リラックス)は痛み・可動域・機能を改善するうえで、「従来の理学療法単独よりも有望」とまとめられています。
ホールド・リラックスの手順
- 患者に「腕を下に(内転方向)軽く押そうとしてください」と指示。
- 術者はその動きを等尺性に止める(動かないように支える)。
- 5〜8秒間保持したら、患者に「力を抜いてください」と伝える。
- 力が抜けたら、術者はゆっくりと数度だけ外転を追加し、新しい終末域で止める。
- これを5〜8回くり返す。
僕は現場だと5秒を5回ぐらいやることが多いですかね。
他動でこっちが触るとどうやっても力が入ってしまう人の力を抜きながら行えるので、知っていると便利だと思います。
まとめ
- 肩関節外転は、肩甲上腕約120°+肩甲骨約60°の組み合わせで180°になります。
- 痛みが少なければ終末域モビライゼーション、痛みが強ければMWM、他動で力が入る人にはPNFストレッチを使い分けます。
- これら3つは、いずれも系統的レビュー・メタ解析で「痛み・可動域・機能の改善が期待できる」と報告されています。
というお話でした。参考になれば幸いです。
ここが分かりにくいなどあれば、Xでもコメントでも質問してください。どうぞよしなに。
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