めまいの特効薬は運動だった?──前庭神経炎の治療法を徹底比較

論文

「急に天井が回るような感覚に襲われて、立っていられなくなる…」

そんな突発的なめまいの原因として知られるのが「前庭神経炎」です。耳の奥にある前庭神経が炎症を起こすことで、平衡感覚がぐらぐらと揺らぎ、強烈な吐き気やふらつきに悩まされるこの症状。実は、発症後の数日〜数週間がとくにしんどいにも関わらず、その後も「なんとなくバランスが悪い」「頭がふらつく」といった不快感が長引くことも少なくありません。

では、この症状にいちばん効く治療法はなんなのか?

2024年に発表された最新のネットワーク・メタ分析(R)が、この疑問に一つの答えを出してくれました。

効いたのは「運動」+「薬」+α

この研究は、前庭神経炎に対する治療法を比較した過去のランダム化比較試験(RCT)を統合したもの。全部で381人を対象にした7つのRCTから、11の治療パターンをピアワイズ&ネットワーク比較しており、かなり信頼性の高い設計です。

評価の指標は「DHI(Dizziness Handicap Inventory)」という、めまいによる生活の困難さを測るスケール。点数が低いほど、日常生活への支障が少ない=症状が改善している、ということになります。

主な治療法とその効果(標準化平均差:SMD)は以下のとおり:

  • 運動療法+ステロイド+半規管刺激トレーニング(VRT+CST+SCCST):SMD −1.80(かなりの改善!)
  • 運動療法のみ(VRT):SMD −1.06(十分に効果あり)
  • ステロイドのみ(CST):SMD −0.29(統計的に効果なし)
  • 運動療法+ステロイド(VRT+CST):SMD −0.87(有意差は出ず)

つまり、いちばん効いたのは「運動+薬+特殊トレーニング」のフルセット。次点は「運動療法のみ」で、逆に薬だけでは有意な効果が見られなかったという結果になっています。

「めまいは寝て治す」ではなく「動いて治す」時代へ

この結果から明らかになるのは、従来よく見られた「ステロイドで炎症を抑える」「安静にして回復を待つ」といった対処法だけでは、前庭神経炎はなかなか改善しないということ。

一方で、自分の身体を「動かす」ことで脳の平衡機能を再教育するようなアプローチ、いわゆる「前庭リハビリ(VRT)」こそが、根本的な改善につながる有望な手段であるという証拠が積み上がってきました。

実際、前庭リハビリでは以下のような動きが推奨されています:

  • 頭を上下左右に動かしながら視線を一定に保つ「視覚安定化訓練」
  • 不安定な足場を使ったバランス訓練
  • 日常動作への段階的な復帰プログラム

この辺はこの論文を参照するとより具体的です。

さらに、今回トップの効果を示した「SCCST(半規管刺激トレーニング)」は、より専門的なリハビリ方法で、耳の奥の三半規管を個別にターゲットとした刺激を加える方法。おそらく「動きの再学習」を最大化する働きをしているのでしょう。

この流れ、実は「運動による脳の可塑性(ニューロプラスティシティ)」という、近年の神経科学のトレンドとも合致しています。

2018年のレビュー論文によれば、運動は脳内の前庭皮質(平衡感覚を司る領域)や小脳において、神経結合の再構築を促進するということが示唆されており、まさに「動きながら治す」ことの科学的裏付けになっています。

まとめ:前庭神経炎に効く3つの選択肢

では、前庭神経炎にかかったとき、どうすればいいのか? 実践的なポイントをまとめると:

  1. ステロイドだけに頼らない:薬だけではDHIスコアに有意な改善は見られませんでした。
  2. 前庭リハビリは必須:VRTだけでも効果は大きく、身体を動かすことが回復のカギになります。
  3. 可能なら専門トレーニングも追加:SCCSTなどの特殊刺激が加わると、さらに効果が高まる可能性あり。

めまいの辛さは、なかなか他人には伝わりにくいもの。でも、科学的に正しいアプローチで「動くこと」ができれば、脳はちゃんと適応してくれる。そう考えると、少し気がラクになりますよね。

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