理学療法士として働いている中で最も気になるのは「関節可動域」と言っても過言ではないでしょう。
ここでは肩関節外旋ROM制限に対しての評価から治療までをまとめようと思います。
肩関節外旋の関節可動域
- 基本軸:肘を通る前額面への垂直線
- 移動軸:尺骨
- 参考可動域:外旋60°
肩関節外旋可動域制限の治療法
ここからは、外旋制限の代表例として「凍結肩(肩関節周囲炎)」を主な対象に、
系統的レビュー(多くの研究をまとめた論文)やランダム化比較試験(RCT)で
比較的エビデンスの質が高いとされる治療法を3つ紹介します。
ポイント:
- 外旋だけを単独で扱った研究は少なく、
- 多くは「凍結肩全体の可動域・痛み・機能」を対象にしています。
治療法①:構造化された運動療法(他動+自動運動+ストレッチ)
1)どんな治療か
- 他動運動(セラピストが動かす)
- 自動・自動介助運動(患者自身が動かす)
- ストレッチ
をセットにしたプログラムを、数週間〜数か月続ける方法です。
2)エビデンス
- Mertens ら(2022)の系統的レビュー・メタ解析
- 凍結肩患者を対象とした33本のRCTをまとめた研究
- 結果:
- 運動療法を含むプログラムは、痛み・機能・可動域(外旋を含む)を有意に改善
- 運動を含まない治療と比べて、可動域改善は一貫して運動療法が優位(PubMed)
- ただしプログラムの内容は研究ごとに違い、「どの運動が一番良いか」までは決めきれていません。
- 一部のRCTでは、
- 週3〜5回
- 4〜8週間
- 各回30〜60分
の運動療法で、外旋を含む肩の可動域が大きく改善しています。(PMC)
3)実際のやり方の例(まとめ)
研究ごとに細かい違いはありますが、共通する構成をシンプルにまとめると:
- 他動運動
- 仰向けで肩90度外転・肘90度屈曲
- 痛みが許容できる終末域近くまで外旋
- そこで小さく往復させる(ゆっくり1往復2〜3秒など)
- 自動・自動介助運動(棒など)
- 両手で棒を持ち、健側で棒を押しながら患側を外旋方向へ誘導
- 10回×2〜3セット
- ストレッチ
- 外旋位で10〜30秒キープを数回
- 研究によっては10秒×20回など回数多め(PMC)
治療法②:終末域モビライゼーション+運動療法
1)どんな治療か
- 上の運動療法に加えて、関節包が張る終末域でのモビライゼーション(徒手療法)を行う方法です。
- マイトランド法・カルテンボーン法・Mulligan MWM などがよく使われます。
2)エビデンス
- Kubuk ら(2024)の系統的レビュー・メタ解析
- 一次性凍結肩を対象に「終末域モビライゼーション」をまとめた研究
- 結果:
- 短期〜中期で、痛み・肩の可動域・機能が改善する傾向
- ただしエビデンスの確実性は「非常に低い」と評価(研究の質や数がまだ不十分)(Tandfonline)
- Zavala-González ら(2018)の系統的レビュー・メタ解析
- 関節モビライゼーション技術(主に高グレード)をまとめた研究
- 対照と比べて、外転・外旋の可動域が平均約20度多く改善したと報告(Medwave)
- Johnson ら(2007 RCT)
- 凍結肩患者20名を
- 前方滑りモビライゼーション
- 後方滑りモビライゼーション
に割り付けて比較
- 6回の治療後
- 前方群:外旋の平均改善はごくわずか
- 後方群:外旋が平均約30度改善し、有意差あり(PubMed)
- 凍結肩患者20名を
- ただし、別の系統的レビューでは
- 「モビライゼーション+運動療法」と
- 「運動療法のみ」
の差が小さいとする結果もあり、まだ結論は揺れています。(PMC)
3)実際のやり方のイメージ
- 仰向け
- 外旋終末域近くまで他動で持っていく
- その位置で
- 上腕骨頭に後方(+必要に応じて下方)の滑りを加えながら、小刻みに揺らす
- 1秒あたり2〜3回のリズムで
- 約30秒続ける × 3〜5セット
- 週2〜3回を4〜8週間、運動療法と組み合わせる(Tandfonline)
※急性期の強い夜間痛がある時期には、この強度で攻めると悪化の危険があるため、痛みが落ち着いてきた硬さ優位の段階で使うのが一般的です。
治療法③:ローテーターカフ(特に外旋筋)の筋力トレーニング
1)どんな治療か
- 棘下筋・小円筋を中心とした外旋筋と、
肩甲骨の筋肉を重点的に鍛える治療です。 - 外旋筋が弱いと、肩甲上腕リズムが崩れやすく、
「可動域は出ているのに、痛みや不安定感で動かせない」という状態になりがちです。
2)エビデンス
- Schydlowsky ら(2022 RCT)
- 肩の痛みを持つ患者を
- 監視下での高負荷トレーニング
- 自宅中心の軽い運動
で比較
- 高負荷群のプログラムには
- 側臥位外旋
- 側臥位内旋
- 肩甲面挙上(scaption)
などローテーターカフ強化種目が含まれる
- 結果:高負荷・監視下トレーニング群の方が、痛み・機能の改善がやや大きかった(SpringerLink)
- 肩の痛みを持つ患者を
- Brumitt ら(2020 RCT)
- 側臥位外旋運動を
- 通常トレーニング
- 血流制限トレーニング(BFR)
で比較
- どちらの群もローテーターカフの筋力が有意に増加(PubMed)
- 側臥位外旋運動を
- いくつかのレビューでは、外旋筋トレーニング(特に側臥位外旋)は
- 棘下筋・小円筋の筋活動が高く
- 肩の安定性向上に有効とまとめられています。(Consensus)
可動域そのものへの直接的な効果は、運動療法全体と比べてデータが少なめですが、
「可動域+筋力」の両面を整える意味で、外旋筋トレーニングはほぼ必須と言えます。
3)側臥位外旋トレーニングのやり方(代表例)
- 側臥位で、上になった腕が患側
- 肘を体側につけて90度曲げる(小タオルを挟むと良い)
- 手に0.5〜1kg程度のダンベルかペットボトル
- 肘を固定したまま、前腕を天井方向へ回す(外旋)
- ゆっくり上げて、1秒止めて、ゆっくり戻す
- 8〜12回 × 2〜3セット、週2〜3日(SpringerLink)
まとめ
- 凍結肩の外旋制限には、構造化された運動療法が土台になる
他動運動+自動(自動介助)運動+ストレッチを、週3〜5回・数週間〜数か月続けると、痛み・機能・外旋を含む可動域が全体として改善しやすい。 - 終末域モビライゼーションは「+α」の選択肢だが、エビデンスはまだ弱い
外旋終末域での後方滑りなどを運動療法に足すと、痛みや可動域が良くなる傾向はあるが、研究の質が足りず「確実」とまでは言えない。急性期には強刺激は避ける。 - ローテーターカフ(特に外旋筋)と肩甲骨筋の筋トレはほぼ必須
側臥位外旋などで棘下筋・小円筋を鍛えると、肩の安定性が高まり、痛みや機能が改善しやすい。可動域データは少ないが、「ROM+筋力」をそろえる意味で外せない要素。
というお話でした。参考になれば幸いです。
ここが分かりにくいなどあれば、Xでもコメントでも質問してください。どうぞよしなに。
リンク


コメント