今回は、サッカー選手を対象に、複数の股関節内転エクササイズを比較し、どの種目が最も効果的かを筋電図(EMG)で評価した2014年の研究(R)を紹介したいと思います。
コペンハーゲン・アダクションとチューブを用いた内転運動が効く
この研究は、エリートサッカー選手40名を対象に、8種類の股関節内転エクササイズを実施し、それぞれの筋活動(EMG)を測定するというもの。とくに評価されたのは、長内転筋(adductor longus)の活動量です。
結果として、筋活動のピークは14〜108%MVC(最大随意収縮基準)とばらつきがあり、とくに「コペンハーゲン・アダクション」や「チューブを用いた内転運動」が高強度な刺激を与えることが確認されました。
ここまで読むと、「じゃあこの2つの運動をやれば間違いない」と思われるかもしれません。しかし、少し冷静に見る必要があります。
EMGデータの限界
筋電図(EMG)は、筋肉が「どの程度活動しているか」を知るうえで有効な指標ですが、それがそのまま筋力アップや痛みの予防につながるとは限りません。
たとえば、ある種目でEMG値が高くても、それが「筋の機能改善」や「痛みの軽減」といった実際のアウトカムにどうつながるかは、長期的な臨床研究(RCTなど)を通じて検証する必要があります。今回の研究はあくまで「即時の筋活動」の測定にとどまっており、効果の持続性や日常生活への影響までは評価していません。
アスリート対象研究の「一般化」の注意点
対象となったのは、週5時間以上トレーニングをしているエリート男性サッカー選手です。一般のデスクワーカーや高齢者、あるいは運動習慣が少ない方に、このデータをそのまま適用するのは慎重であるべきです。
筋量、柔軟性、関節可動域、協調性など、身体の状態は大きく異なります。高強度のエクササイズを無理に取り入れてしまえば、逆に腰痛や股関節痛を悪化させるリスクもあるわけです。
それでも、やる価値はある
ここまで批判的に見てきましたが、それでも私は適切な内転筋トレーニングは大いに意味があると考えています。
ポイントは、以下の3点に集約されるでしょう:
- EMGデータは指標として有効:とくにトレーニング強度の序列づけには有用
- 段階的導入がカギ:高強度種目は最初から入れず、軽度のエクササイズ(チューブ利用など)から開始
- 全体最適の一部として使う:内転筋トレだけで完結させず、呼吸、体幹、柔軟性と統合する
もし取り入れるなら、週2〜3回、ウォームアップやクールダウン時に、1〜2種目ずつ行うのがおすすめです。たとえば…
- チューブ・アダクション(片脚15回×2セット)
- コペンハーゲン・アダクション(初心者版)(5秒キープ×2〜3回)
などから始めると、怪我のリスクも少なく、実感も得やすいはずです。僕もさっそく試してみようと思います。
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