「運動は体にいい」ってどこまでホントなの?130の研究を統合したら意外な結論が出た件

インフォグラフィック。16本のアンブレラレビューを統合したメタ・アンブレラレビューでは、身体活動がパーキンソン病・アルツハイマー病・一部がんの発症リスク低下と関連することが報告され、高強度スポーツは心房細動リスク増加(eOR約1.64)と関連することが報告されているという主張。 論文

「運動は体にいい」ってのは、もはや常識みたいになってますよね。WHOも「とにかく動け!」って言ってますし、医者も「運動しましょう」が口癖みたいになってる。でも、ふと「本当にどのぐらい効くの?」「何に効くの?」って疑問がわいてくることもあるわけです。

そんな疑問に答えてくれそうなのが、2023年に発表されたメタアンブレラレビュー(R)でして、これがなかなか面白い内容になっておりました。

メタアンブレラレビューってなんぞや?

まず「メタアンブレラレビュー」ってなんやねん、って話なんですけど、ざっくり言うと「レビューのレビューのレビュー」みたいなもんです。

もともと「メタ分析」ってのは複数の研究をまとめて分析する手法で、「アンブレラレビュー」はそのメタ分析をさらにまとめたもの。で、今回の研究は、そのアンブレラレビューをさらに16本集めて統合しちゃったわけですな。もうマトリョーシカみたいな状態。

研究チームは、PubMed、PsycINFO、CINAHLの3つのデータベースから論文を引っ張ってきて、統計的に有意だった130の関連を分析しております。

結論:130のうち129は「運動は体にいい」だった

で、結論から言っちゃうと、130の関連のうち129が「運動は健康に良い」という保護的な効果を示してたんですよ。つまり、ほぼ全部「やっぱ運動っていいよね」って結果だったわけです。

ただし、唯一の例外がありまして、それが「高強度スポーツと心房細動」の関連。これだけはリスクを高める方向に働いてたんですな。

最強クラスのエビデンスが出た関連はこちら

研究では、エビデンスの強さを「convincing(確信的)」「highly suggestive(非常に示唆的)」「suggestive(示唆的)」「weak(弱い)」の4段階で評価してるんですが、最強クラスの「convincing」または「highly suggestive」レベルで支持された関連を見てみると、

  • パーキンソン病の発症リスク:34%低下(eOR 0.66)
  • アルツハイマー病の発症リスク:38%低下(eOR 0.62)
  • 認知機能の低下リスク:33%低下(eOR 0.67)
  • 乳がんの発症リスク:13%低下(eOR 0.87)
  • 子宮内膜がんの発症リスク:21%低下(eOR 0.79)
  • 大腸がんの発症・死亡リスク:30%低下(eOR 0.70)

みたいな感じになっております。特に認知症系とがん系に対する効果がガチってことですな。

唯一のリスク:マラソンとかやりすぎると心臓がヤバいかも

さて、130のうち唯一リスクを高めてた「高強度スポーツと心房細動」の話なんですけど、これがちょっと興味深いんですよ。

具体的には、高強度スポーツ(マラソンとか持久系競技)を長期間やってる人は、心房細動のリスクが1.64倍になるって結果が出てるんですな。しかもこれ、エビデンスレベルは最強の「convincing」。

メカニズムとしては、

  • 電解質の異常
  • 心房のリモデリング(構造変化)
  • 自律神経系の乱れ
  • 慢性的な炎症

あたりが関係してるんじゃないかと言われてますが、まだ完全には解明されてないみたい。

とはいえ、「だから運動するな」って話ではなくて、「やりすぎには注意しようね」ってことですな。週末だけ急にフルマラソン走るとか、そういうのはちょっと考えたほうがいいかもしれません。

病気を持ってる人にも運動は効く

この研究の面白いところは、健康な人だけじゃなくて、すでに病気を持ってる人(臨床集団)に対する効果も調べてるところなんですよ。

で、結果を見てみると、

がん患者の場合

  • 身体活動で全がん死亡リスクが21〜25%低下

認知症の人の場合

  • 複合的な運動で転倒リスクが31%低下
  • 運動で抑うつ症状も軽減

慢性腎臓病(透析中)の人の場合

  • 運動で血圧が改善

乳がん患者の場合

  • ヨガ、気功、ピラティスなどで疲労が大幅に軽減(最大78%改善)

みたいな感じで、病気があっても運動の恩恵は受けられるっぽいんですよね。

がん予防効果がけっこうすごい

一般集団(健康な人)に対する効果で特に目立ったのが、がん予防の話。

身体活動をしてると、

  • 乳がん:13%リスク低下
  • 子宮内膜がん:19〜21%リスク低下
  • 大腸がん:26〜30%リスク低下
  • 前立腺がん:14%リスク低下
  • 直腸がん:12%リスク低下

という結果が出ております。

なんでこうなるかというと、運動によって、

  • 全身の炎症マーカーが下がる
  • 性ホルモンのバランスが整う
  • 腸内細菌叢が改善する
  • インスリンやレプチンの働きが良くなる

といった変化が起きるからだと考えられてるんですな。

この研究の限界

もちろん、この研究にも限界はありまして、

  1. エビデンスの一貫性がイマイチ:130の関連のうち約46%が、複数のエビデンスレベルにまたがってた(つまり、研究によって結果がバラついてる)
  2. 「運動」の定義があいまい:種類、強度、頻度、時間の詳細が統一されてない
  3. 有意な結果だけを対象にしてる:「効果なし」の結果は検討されてない
  4. 方法論がバラバラ:含まれてるアンブレラレビュー間で、やり方が違う

このへんは解釈するときに注意が必要ですな。

結局、どのぐらい運動すればいいの?

WHOのガイドラインによると、

  • 中強度の有酸素運動:週150分以上
  • 高強度の有酸素運動:週75分以上
  • 筋トレ:週2回以上

ってのが推奨されております。

ただ、今回の研究を見る限り、「何かしら動いてれば、だいたい良い効果がある」ってのが大きな結論かなと。逆に言えば、「完璧な運動プログラムを組まなきゃ!」って気負う必要はなくて、できる範囲で体を動かすだけでも十分恩恵はあるってことですな。

まとめ

というわけで、今回の研究から言えることをまとめると、

  1. 運動は認知症予防とがん予防に特に効く(エビデンス強め)
  2. ただし、高強度の持久系スポーツをやりすぎると心房細動リスクが上がるかも
  3. 病気を持ってる人でも、運動の恩恵は受けられる
  4. 完璧を目指さなくても、動くだけで効果あり

みたいな感じになります。

結局のところ、「運動は体にいい」ってのはほぼ間違いないんだけど、やりすぎには注意ってことですな。マラソンランナーの方とか、高強度トレーニングをガンガンやってる方は、たまに心臓の検査でもしておくといいかもしれません。

まぁ、ほとんどの人は「やりすぎ」を心配するより「やらなさすぎ」を心配したほうがいいと思いますけどね(笑)。とりあえず散歩から始めてみるのがオススメでございます。

タイトルとURLをコピーしました