「勉強中や仕事中にガムを噛むと集中できる気がする」みたいな話はよく耳にするところでありまして、私も執筆作業のときにはガムを噛んだりしております。とはいえ、これって本当に科学的な根拠があるの?ってのは気になるポイントでしょう。
といったところで、2019年に出たメタ分析(R)がこの問題にガッツリと取り組んでおりまして、なかなか勉強になりました。これはMEDLINEとPsycInfoから21本の研究をピックアップして、「咀嚼が持続的注意(sustained attention)に与える影響」を徹底的にチェックしてくれたんですよ。
そもそも「持続的注意」って何?
まず言葉の定義を説明しておくと、
| 用語 | 内容 | 測定方法 |
|---|---|---|
| 持続的注意 | 繰り返しの刺激に対して集中を維持する能力 | 反応時間テストなど |
| 覚醒度(アラートネス) | 注意を持続するために必要な「目が覚めてる感」 | 主観的な自己評価スケール |
みたいな感じでして、要するに「長時間の作業でも集中力を保てるか?」って話ですな。
で、結果はどうだったの?
分析の結果、研究チームがどんな答えを出したのかと言いますと、
持続的注意について
- 効果量(Cohen’s d):−0.1479
- 95%信頼区間:[−0.2913, −0.0045]
- p値:0.043
- 研究間異質性(I²):0.00%
ってことで、統計的には有意に改善するという結果が出ております。ただし、効果量としては「弱い」レベルでして、劇的に集中力が爆上がりするわけではなさそう。とはいえ、研究間のばらつきがほぼゼロ(I²=0.00%)ってのはかなり一貫した結果と言えまして、「まぁ多少は効くんじゃない?」ぐらいの信頼度はありそうであります。
覚醒度(アラートネス)について
- 効果量(Cohen’s d):0.3797
- 95%信頼区間:[−0.0053, 0.7647]
- p値:0.052
- 研究間異質性(I²):70.94%
こちらは「認知的に負荷の高い課題をやっているとき、ガムを噛んでいると眠くなりにくい傾向がある」という結果。ただしp=0.052なので統計的有意には届いておらず、さらに研究間のばらつきも大きい(I²=70.94%)ので、「傾向としてはあるかもね」ぐらいの温度感で見ておくのが良さそうですな。
なんで噛むと集中力に影響するの?
このような結果が出た理由を、いくつかの仮説で説明できそうでして、
- 脳血流の増加:咀嚼運動が脳への血流を促進して、認知機能をサポートする可能性
- 覚醒水準の維持:リズミカルな顎の運動が、覚醒状態を保つ助けになるのかも
- ストレス軽減:咀嚼がコルチゾールなどのストレスホルモンに影響するって研究もある
みたいな感じ。ただし、現時点ではメカニズムは十分に解明されておらず、今後の研究が待たれるところであります。
この研究の限界点
もちろん、この研究にも限界がありまして、
- ガムの種類がバラバラ:味付きか無味か、硬さの違いなど、使用されるガムの特性が研究によって異なる
- 噛むタイミングの問題:課題中に噛むのか、課題前に噛むのかで効果が変わる可能性
- プラセボ効果の統制が難しい:「ガムを噛んでいる」という認識自体が影響している可能性も排除できない
ってあたりは注意が必要ですな。
じゃあ結局どうすればいいの?
今回のメタ分析からわかるのは、
- ガムを噛むと集中力がちょっとだけ上がる(効果は小さいけど一貫している)
- 眠気を抑える効果もありそう(ただしエビデンスは弱め)
- 劇的な効果は期待しないほうがいい
- この研究の著者のうち2名は、チューインガム製造会社から科学コンサルタントとして報酬を受けている
って感じですね。
個人的な活用法としては、
| こんな人におすすめ | 理由 |
|---|---|
| 長時間のデスクワークが多い | 覚醒度の低下を防げるかも |
| 午後の眠気に悩んでいる | カフェインの代替手段として |
| 何か口寂しいときがある | お菓子を食べるよりはマシ |
みたいな感じで、「まぁダメ元で試してみるか」ぐらいのスタンスが良いんじゃないでしょうか。


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